地域の地熱資源活用の可能性

<特別寄稿>
熊本わいた地熱発電所の可能性
地熱資源との共生とマイクロ発電

熊本わいた地熱発電所の可能性
小林 博人
慶応義塾大学大学院 政策・メディア研究科兼環境情報学部 教授

生活インフラは集中から分散へ

将来に向けた化石燃料に代わる自然エネルギーとして注目される地熱発電は、火山国である⽇本では最も適したエネルギー供給方法の一つとなりえます。しかし今までに建設された地熱発電所は、供給する電力量を最大限とするため地下温水資源を大量に使用するとともに、その施設建設のために森林を伐採・開発する必要があり、自然破壊に繋がっているという指摘がありました。

熊本県小国町わいた温泉におけるわいた会および中央電力ふるさと熱電株式会社による地熱発電所計画は、発電量を小規模に抑えることにより温泉郷への影響を極力減らした上、周辺自然環境へのインパクトをできるかぎり抑える計画としています。またこの施設建設により地⽅集落が往々にして有する過疎化の問題を少しでも緩和し、将来に向けて持続可能なコミュニティを作れるよう地域振興にも寄与することが意図されています。

このような小規模地熱発電の方法は、国内に数ある温泉郷のポテンシャルを引き出し、環境破壊を最小限に抑えつつ次世代のエネルギー供給を可能にするばかりでなく、地方の衰退する集落の再生をも視野に入れた画期的な未来型事業だと言えます。近代の都市計画では、都市のインフラストラクチャーと言われるエネルギー供給や上下水道の整備、防災のシステムなどは、非常に大きい規模の施設を集中的に配置して広範囲をカバーするように計画されてきました。しかし広範なネットワークは一度どこかでほつれが生じると全体の系が麻痺し、いっぺんに機能停止をするという事態が起きることが懸念されます。阪神・淡路大震災や東日本大震災のときに都市インフラが分断し電気やガス・水道などの供給の復旧には時間がかかりました。これらの反省に立ち、これからのエネルギーや防災の考え方は、供給する側の規模を小さくし、その分散してたくさんの拠点を配備することにより、より柔軟で地域に根ざした生活インフラの整備を行っていくことが望ましいと考えられます。

電気の供給も地域が主体的に維持・管理することに関わっていくシステムを持つことで、地域資源への関心や責任感も高まり地元に対する愛着や誇りの醸成が期待されるばかりでなく、非常時にも分断されることの少ないエネルギー供給を行えるというメリットがあります。

地域になじむ発電所を目指して

わいた地熱発電事業では、温泉水を地下から汲み上げその蒸気を使って発電をするため、今までの発電所と比べてコンパクトに建設・運営できると言いつつも地上には高さ13メートル・幅20メートル×10メートルの金属製のプラントが出現します。
田畑用に山を一部切り開いた平地にその金属塊が置かれることは、地熱発電を地域で行っていることの査証にもなり、誇り高い先進性を表す一方で、自然環境にネガティブなインパクトを与えているとも言えます。
そのため、このプラントをうまく自然環境や地域の風景となじむ形にし、地域に貢献する施設であることを示すことにより、
地熱発電が自然環境と地域の双方に融合する施設であることを示すことが望まれます。

わいた温泉郷再生プログラム

地方地域の過疎問題は、我が国の喫緊の課題でありながら容易に解決を見ない問題です。地方自治体の取り組みを待つ猶予もなくなりつつある現在、それぞれのコミュニティで自らその方策を考えなければならない時代となっています。わいた温泉郷は長い歴史と豊かな温泉資源や自然資源を有していながらも少子高齢化、居住人口の減少、温泉業の衰退など抱える問題は深刻化しています。わいた会による地熱発電事業は、そのような過疎集落に対する改善事業のモデルとして、その収益の一部を地域振興に充て、今後のあるべき地域振興策の検討を始めました。

そこで、発電所の付帯施設の計画と併行して、地域コミュニティを再生し、活力ある地方集落を再建するプログラムを提案します。それは、地域と学生が一体となった地域再生のためのワークショップを定期的に行い、将来に向けた町のビジョンを描くこと。或はその将来構想に沿う地域再生のための事業・イベントを継続的に行うこと。また、それらの活動をモデル化し、地熱発電を伴った温泉を主軸とした地域再生モデルとして他の地域への応用可能性を検討するといった内容です。

わいた温泉における地熱発電事業は、これからの日本のエネルギー問題に対する新たな展開の可能性を秘めているばかりでなく、地⽅地域の過疎問題をも視野に入れた計画として特筆すべき事業だといえるでしょう。本事業がこれからの自然エネルギーを用いた地域振興事業の魁となることを切に願ってやみません。

小林 博人

慶応義塾大学大学院 政策・メディア研究科兼環境情報学部 教授

京都大学、同大学院を修了後、ハーバード大学大学院デザインスクール(GSD)で、建築設計・都市デザインを学び、同大学院からデザイン学博士号を取得。
日建設計東京、ノーマン・フォスター事務所フランクフルト事務所で設計の実務を行う。2003年から設計事務所、小林・槇デザインワークショップ(KMDW)を共同主宰 慶應大学・マサチューセッツ工科大学(MIT)では新しいサステイナブルコミュニティ再生の手法を研究中

地熱資源との共生とマイクロ発電
小池 克明
京都大学大学院工学研究科都市社会工学専攻・地殻環境工学講座・教授 博士(工学)

世界的に需要が増す地熱発電

石油・天然ガス・石炭といった化石燃料資源への依存度減少、それに化石燃料資源の燃焼によって排出される温室効果ガスの量の大幅削減は、今日、持続可能社会作りのための重要課題の一つになっています。そのため、世界的に再生可能エネルギー資源への依存度を高める方向にあることは周知のとおりです。
化石燃料資源が担う現在のベース電源を近い将来、再生可能エネルギーが担えるようになるためには「大きな出力、高い安定性、高い変換効率、低い発電コスト」の4つの条件を満足する必要があります。この10年間で最も発電量の伸びが著しい風力、あるいはパネルの設置面積が大幅に増大した太陽光でも安定性と効率の面からベース電源となるには難しい状況です。

これに対して「地熱」はいずれの条件も満足し、地熱資源に恵まれた地域でのベース電源として有望であると考えられます。実際、世界的に地熱発電への需要が急増しています。日本と同じ火山国であるインドネシアは、アメリカ、フィリピンに次いで世界第三位の地熱発電設備容量を誇っていますが(2010年で1,197MW)、2025年にはその8倍に当たる9,500MWを目標とすることが国策に掲げられています。
このように世界の石炭資源国であるインドネシアにおいても、低炭素化社会の実現と地熱資源利用の急速な促進が喫緊の重要課題になっています。

地熱の資源と共生するマイクロ発電

地球の内部では概して、地面から深くなるほど温度が高くなり、深度6,370kmの中心付近では太陽の表面温度である6,000℃近くにもなると考えられています。地熱発電では、例えば200℃以上という日常とはかけ離れたとても高い温度が地下に存在することが必要となりますが、このような高温域の存在は地球規模から見れば珍しいことではありません。火山の近くでは、溶けた岩石であるマグマが地下深くに広い範囲にわたって存在し、地面から長い時間をかけてしみ込んできた雨水などを温め、熱水に変えます。この熱水が地熱発電の主な源になります。

日本には火山が多く分布しているので、コストを考えなければ、太陽光と同じように地熱資源も無尽蔵にあるといえます。しかし、地熱発電が付近の温泉や地下水系に影響を及ぼさないこと、過剰な利用によって地熱資源を枯渇させないことにも注意しなければなりません。
このような地熱資源との共生方法として、マイクロ発電は有効であります。我が国の持続的発展のため、マイクロ発電、それに地熱発電全体がいっそう促進されることを願っています。

小池 克明

京都大学大学院工学研究科都市社会工学専攻・地殻環境工学講座・教授 博士(工学)

1986年京都大学工学部資源工学科卒 京都大学大学院工学研究科 教授
スタンフォード大学客員研究員 熊本大学大学院自然科学研究科教授を経て現職
専門は地質・環境リモートセンシング、数理地質学、応用地球物理・化学

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